ご遺族からのコメント

本日大津いじめ自殺事件の民事裁判にて、被告大津市と被告少年の裁判が分離され、被告大津市との和解を受け入れました。訴訟を起こしてから3年余りに及ぶ裁判に、一つの区切りがつくこととなりました。

「言葉で人を死に追いやることが出来る」
「暴力を伴わなくても無視することで人を死に追いやることが出来る」
いじめとはそういうものである。

「息子は教師と学校に見殺しにされた」
「息子の命は助けることが出来た」

今回の裁判が明らかにしたことです。

今回の司法判断がなされた経緯には、息子を初めとする、これまで教師の救いの手が差し伸べられず自ら命を落とした多くの子供たちと、何とか生き延びられたけれども未だに心に大きな傷を負った子供たちの声なき声に対して下された判断であり、息子の自死事件のみで下された裁判所の判断とは思っておりません。

今回の司法判断は、これまでの「いじめ訴訟」を大きく前進させる画期的な司法判断だと思っております。

いじめ被害が自殺に発展することは、報道やインターネット等の情報を通じて今や誰もが知っている周知の事実のはずです。しかも教職員であれば、文部科学省や研究機関の情報に接する機会も多く、一般人(特に保護者など)よりは子供の心理に精通した専門家であり、いじめ被害が自殺に発展するリスクをより理解しているはずです。
しかしながらこれまでの司法の判断ではその「常識」が通用せず、被害者に厳しい判断ばかりが下されていました。

これまでなされてきた過去の司法判断に対して、今回の大津地裁が下した判断は、今後の被害者救済において大きな意義があります。この事はしっかりと把握し、マスコミの方々には日本全国に伝えていただきたいと思います。

1点目は裁判所が学校側の予見可能性を認めた事

いじめを受けた児童及び生徒を担当する教諭及びその他学校職員は、「一般的」に、いじめを要因として、いじめを受けた児童生徒の自死が生じうることを予見できる状況にあったというべきであるとした点。

文科省や、国立教育政策研究所(文科省直属の研究機関)より日本全国の全ての学校や教育委員会に対していじめを防止するために発出し続けられてきた事実を認定し、作成され、それらの警鐘を促す文章や教師への研修資料などを認識していれば、当然にいじめが自死に発展することを「一般的に」予見できると判断した点は、今後重大事態が発生した際に学校や教師が「いじめと思っていなかった」、「いじめは発見していなかった」「いじめが自死に繋がると思っていなかった」、とするような言い訳をすることは出来ず、学校のいじめ事案に対する責任が明確になったと思います。

2点目に、学校がいじめ被害に十分注意しなかったことと自殺との間に因果関係を認めた事

学校がいじめ被害に十分注意しなかったことが自殺につながったということを全面的に認め、いじめに対して注意しなかったことと自殺との間に因果関係を認めたという点。

これまで多くの裁判では、教員が注意しても自殺を防ぐことは出来なかったとして、学校側の不注意と自殺との因果関係を否定するものがほとんどでした。子供の自殺は突然起きることが多く、注意しても自殺は防ぎきれないという裁判所の判断が被害者を苦しめてきました。
いじめ被害に対して教員が十分な注意を払うことなく被害を放置すれば、被害者はいずれ自殺に追い込まれてしまう。そんな当然の事すら司法はなかなか認めようとしませんでした。
これまでの司法判断の在り方に疑問を呈したのが、今回の和解で示された大津地裁の判断なのです。
いじめ被害に対する教師の不注意、不作為は自殺に発展させるものである。

学校の安全配慮義務違反と息子の自死との間に相当因果関係を認めた点については、これまでの司法判断より踏み込んだ内容となっており、教員が十分な注意を尽くしていれば自死を防ぐことが出来たと明確に判断されました
司法の判断が、私たちの常識に大きく近づき、従来の司法判断を一歩進めたと実感させるものだと言えます。

私はこの裁判に求めたものは「息子の死の真相の究明」と、今後同じ事件が起こらない為にもその「責任の所在の明確化」と「究明された事実に対しての今後の課題の明確化」でした。今回判決ではなく和解に応じることにしたのも、再発防止策を具体的に取り込むことができ、教育委員会や学校が順守すべきルール、方針、方向性を示すことができるからでした。

私の今後の使命は、全国各地でいじめ被害に苦しみ、悲しみ、悩んでいる被害者の皆さんに、一人でも多く、今回の画期的な和解内容をお伝えすることです。そして、学校のいじめ対策がさらに充実したものとなるよう、この和解を幅広く活用していくことです。
学校や教員の不注意によって自死に追い込まれた被害者とご遺族、いじめの被害に苦み、命の危険に直面している子どもたち、そして、過去のいじめ被害に今なお苦しむ全ての被害者のため、今回の和解内容を幅広く役立ててほしいと願っています。
そして、学校という場所を、子どもたちにとって最も安全で安心できる場所にすること、子どもたちが将来への希望と、社会の担い手として成長していくための場所にすることも、私の重要な使命です。

もう一つ、今回の和解で裁判所が示した内容として重要なのは、謝罪条項です。
学校、教育委員会は、自死の原因が家庭問題であるかのように公言し、虚構に基づく対応に終始し、いじめ被害の調査を打ち切りました。このような対応は全国各地で繰り返され、今もなおご遺族を苦しめています。
このような不適切な対応が繰り返されている中、今回、裁判所が示した謝罪条項は、十分な調査、確認もなく家庭問題という虚構によりかかった対応を繰り返した学校、教育委員会の責任を、大変厳しく指摘するものになっています。家庭問題を持ち出して調査を打ち切り、遺族を傷つけている全国各地の学校、教育委員会の姿勢を、改めて問い直す裁判所のメッセージであると思っています。
また、裁判所の示した和解条項ではその他にも、学校、教育委員会の不適切な対応が詳細に示されています。隠蔽体質や責任転嫁と厳しく批判された事後対応の問題点を明らかにし、二度と同じ過ちが繰り返されることがないよう、裁判所が全国の学校や教育委員会に警鐘を鳴らしたものであるといえます。
さらに裁判所は謝罪条項の中で、どうすれば自死を防ぐことができたのか、という疑問に対する具体的な答えを示しています。自死の直前、元気がなかった、孤独な様子だった、無抵抗な状態で精神的に追い詰められていた、周囲に死にたいと漏らしていたことなど、自死のシグナルに教員が気づき、素早く対応していれば自死を予防することができた。これは、見過ごされがちな子どもたちのSOSに教員は気づいてほしいという裁判所のメッセージだと思っています。全国各地の教育関係者は、この裁判所が示したポイントを理解して、二度と同じ悲劇を繰り返さないための手がかりにしてほしいと願っています。

裁判を始めてからの3年余り、私と同じような問題で苦しまれているご遺族や被害に遭われている方々のところへ出向いて支援をさせていただいておりましたが、全ての事案に共通して感じることは「どこも同じ」だということです。どこの地域の学校・教育委員会においても重大事態が起きれば「学校には問題は無い」「学校はいじめを認識していなかった」とまるで大津と同じです。時にはその自治体の首長ですら学校の隠蔽と虚構作りに協力をする始末です。とても子供の命が守られているとは思えません。

いじめ防止対策推進法が出来てもなお子供の命が無くなり続けている原因は根深く、大人の都合が子供の命より勝り、大人の職位の犠牲に子供たちがなっている現状が最大の問題点だと考えています。

最後になりますが、大津市の越市長は係争中であり、被告の立場でありながら、本件に関する真相究明に対して真摯に向き合ってこられました。越市長は、息子が亡くなって、学校と教育委員会が調査を打ち切った後に市長になった方ですが、遺族推薦の半数の委員を含めた第三者調査委員会を立ち上げ、徹底した事実解明をしていただきました。そして「いじめ根絶」に向けた新たな再発予防策や国に対する提言を行われている行動に対し、私自身高く評価し、心から感謝いたしております。このような市長でなければ息子の問題は究明されなかったと思います。越市長が大津市の市長であって本当によかったです。日本全国の中では首長と教育委員会が結託して隠蔽工作を行っている自治体もある中、今後いじめ問題を初めとする学校における問題解決には非常に重要な方だと感じております。
私が和解に応じた要因の一つは、このような越市長の誠実で真摯な姿勢を信頼し、そして、第三者調査委員会の立ち上げやいじめ対策といったこれまでの越市長の取組みを高く評価したからです。
今後も越市長には「いじめ」を初めとする学校内における事件・事故等の諸問題が恒久的に無くなるよう、引き続き予防・再発防止に資する改革を断行していただき、その先駆者として日本全国にその成果を届ける役割を担っていただきたいと思っております。
これまでも、越市長は、教育改革の同志であると思ってきました。越市長は、その著書にもあるとおり、これまで、息子のために、いじめ問題と戦ってこられました。だからこそ、私も、越市長の著書に寄稿しました。また、教育委員会制度改正の際の衆議院文部科学委員会でも、越市長に私の意見を代弁して教育委員会制度の廃止を述べてもらいました。これからは、原告と被告という立場ではなくなりますので、今まで以上に、同志である越市長とともに全国のいじめをなくすための活動をしていければと思います。

改めて申し上げますが、今回の和解には大きな意義があり、いずれも今後の裁判に大きな影響を与えるものばかりだと思っております。これまで多くの皆様のご支援とご理解、そしてご協力を得ながらここまで裁判を進めてまいりましたが、このような画期的な和解をすることができたのも、ここまでお支え下さった皆様のおかげだと感謝申し上げますと共に、今後も継続する裁判にも引き続きご注目いただきますよう息子に代わって心よりお願い申し上げます。

そして今は声を出すことが出来なくなった天国にいる子供たち、苦しみしか記憶に残っていない学生生活を過ごした被害者の方々、必ず学校、教育委員会の現状を変え、思春期の一番大切な時期を、何の不安もなく、安心して通える安全な学校になるまで頑張ることを誓います。
この問題を一過性のものにせず、越市長と共に恒久的な対策を日本全国に示せていただければ幸いです。

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